真っ直ぐに立つとは?太極拳が奏でる至福の時間 | 札幌太極拳練精会・川村賢さん

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インタビュー第12回は札幌太極拳練精会・代表、川村 賢さんにインタビュー。”おたく”のように武術を追究する川村さん。そこには重力と調和し、地球とつながることで訪れる至福の時間がありました。

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太極拳で養う内部感覚

中国武術との出会いについてお聞かせください。

中学生のときにブルース・リー主演の映画「燃えよドラゴン」を観て、もの凄い衝撃を受けたのが始まりです。しかし当時は中国武術を教えてる道場なんてありませんでしたから、一人でブルース・リーになりきってサンドバックを叩くしかない悶々とした日々を送ってました。

結局、社会人になってからですね、本格的に形意拳を教えてる方にめぐり会ったのは。東京でサラリーマンをしながら6年間学びました。その後、札幌に帰ってきまして、友人が教えていた教室で「うちでも教えてくれないか」と依頼されたのが指導をはじめたきっかけです。

川村先生は太極拳の他に八卦掌、形意拳も教えておられますが、先生ご自身、一番思い入れのあるのはどの武術ですか?

解ってしまえば3つの拳法に差は無いんですけどね。どれか一つを挙げるとすれば太極拳です。一番地球を感じられるといいましょうか。要は重力と折り合いをつけて動くということが一番の本質なんですが、そういった感覚を最もつかみ易いのが僕の場合は太極拳だということですね。

最近では盲学校でも太極拳を指導されているそうですね。

太極拳は世界でも屈指の競技人口をもっている武術であり健康法です。そういった観点から、鍼灸治療の技術に役立てたいというご依頼を受けたのがはじまりです。身体の安定や力の出し方などを実際に私の身体に触れてもらって体験していただいて、いくつかの基本的な動作も行っていただきました。

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一番感じたのは触感というか、触れる部分の感覚が我々よりも断然優れているんです。一度太極拳の力を体感すると「これは普通の力じゃない」ということをすぐに理解してくれるんですね。

実際に形を覚えるにしても、手にとって2,3回教えるだけで、触れたところから感じ取ってすぐに理解してしてしまうんです。 いかに我々が五感があるにもかかわらず、視覚だけにたよって生活しているかということを逆に教えていただきました。

先生が常々仰っている「内部感覚」ということですね。

先ほどの練習も視覚に頼らずに、触感を駆使して相手の動きや力の強弱をつかむといったものです。「強さ」のみを考えた場合、運動神経や反射神経、その他体格、年齢、闘争心といったものは不可欠だと思うんです。

 しかし「より良い動き」をするためには持って生まれた身体能力ではなくて、身体がどう動いているかとか、自分の重心が今どこにあるのか、真っ直ぐ立っているのかといったことを感じ取る 感性とか感受性のほうが大事だと思います。そういったものを養う練習でもあるわけです。

先ほど、一本足で立っている先生を力一杯押してみましたがビクともしませんでした。正直、驚きました。

人間というのは押された力に対して、同じ方向に押し返して耐えようとするんですね。そうなると当然、足幅が狭いほうが不利になるわけです。私の場合は押し返そうとせず、押された力を吸収して足裏に流していたんです。

例えれば電気をアースするような意識を持っているわけですね。そうすると押してくる力とぶつからないので耐えることができるんです。私は爪先立ちでも同じことができますよ。

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「真っ直ぐに立つ」ということ

先生が練習中に仰っていた「真っ直ぐ立つ」という言葉が印象的でした。

真っ直ぐに立っていれば10の重力に対して10の筋力しか使いません。しかし、斜めに立っていると傾いた身体を支えるために15、16と筋力を使ってしまうわけです。 本来使わなくていい筋力を使っているので効率が悪いですよね。

真っ直ぐ立つことによって必要最低限の筋力のみを用いるから力みが消えていく。結果として身体が持っている本来の力が出せるというわけです。何かを付け加えるのではなく、余計なものを取り除いてゆく武術ということですね。

なるほど。足し算ではなく引き算ということですね。

そうです。粘土を付け足して像を作るのではなく、木を削っていって像を作るということですね。力みはいらないから削ろう、闘争心はいらないから削ろう、スピードも削ろう・・・・そういった作業です。私自身も削らなければならないところが、まだまだあると思っていますよ。

練習を拝見させていただいて、接近した攻防が多いように感じました。先生が散打の大会に出場されたときも接近しての攻防が多かったのですか?

私の場合はそうしてました。他のスタイルの方と戦った場合に、自分の学んできた武術のスタイルをどこまで貫けるか、というのがテーマでしたから。また、ルールも「投げて良し掴んで良し」でしたから、自分の武術を表現しやすかったんですね。もちろん「勝つ」ということだけに徹すれば他の方法もあったとは思いますけれども。

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打ってきた相手の手を「掴む」というのは新鮮でした。

結局、接近戦だと相手の身体に触れている機会が多いので、流れの中で腕を掴む、足を引っ掛けるといった動作が自然な表れとして表現できるんです。接触点が多ければ、それだけ相手の動きを制することになりますからね。

たとえばキックボクシングにも接近しての攻防があるんですが・・・・

首相撲ですよね。

そうです。その首相撲でも、先生の練習で拝見したようなその場で真下に崩される、真下に尻餅をつくように崩れるシーンは見たことがありません。あれはどのような崩しなのですか?

最初にお断りしておきたいのは、キックボクシングよりも私たちの武術が上だと言っている訳ではありません。それが大前提です。私自身もキックボクサーの方々とは交流がありまして、彼らの強さは身に染みてわかっています。

蹴りもパンチももの凄いし、首相撲をしても振り回されてしまいますからね。ただ、真下に崩す技術に関して言えば「体験したことがない」と仰ってました。体験したことがないから対応できないと・・・・・ちょっとよろしいですか?こんな感じで重さをかけてるんですよ。

 (立ち上がって実演してくださる川村先生。筆者が実際に崩しを体験させていただいた)

確かに対応できませんね。どういった種類の圧力なのか解るような解らないような・・・。でも実際に崩れてるんだからしょうがないですね(笑)。

繰り返しますが、だからといって我々が上だと言っている訳ではありませんよ。ただ、こういった種類の力もあるんだということを納得してくれたのが嬉しかったというだけの話ですから。山に登る道が違うだけ、ただそれだけのことなんです。

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結局は”おたく”なんです(笑)

競技会への出場についてはどのようなお考えをお持ちですか?

審査員の方の審査基準が解りませんので、これは私個人の考えとして聞いて下さいね。内部感覚を意識する動き(型)は次第に小さくコンパクトになっていくと思っています。そうなると審査員の方も評価しづらくなるのではないでしょうか。

内面感覚の表現としての動き(型)と言うのは解りにくいものです。だから私たちは自分自身の内面からの評価を大切にして競技会に出場するように心がけています。なんか点数が出ない言い訳みたいですけど(笑)、私たちは良くも悪くも「おたく」のように武術を探究しているわけです(笑)。

組手の稽古は内部感覚とどのように関係しますか?

どれだけ地球と繋がっているかというのは自分にしか解らない世界でしょう?そういった追求を続けていると、そのうち幻想がおきてくるんです。要するに「俺はもう極めた」みたいな気になって満足してしまう。そこで、人に対してちゃんと力が伝わっているのかを検証するために組手の稽古があるわけです。組手で強くなるための組手ではなく、自分の感覚を検証するための組手なんです。

内部感覚というのは無限大というか終わりのないものですか?

その通りです。こういった武術はね、ねちねちとやるものなんです(笑)。一瞬燃え上がるようなものではなく、一生続けていくものなんですよ。一人で型を練って、自分の感覚を高めていく。それがこの武術の素晴らしさです。私も53歳になりますが、自分が衰えたという感覚はまるで無いです。常に伸びつづけている内部感覚が楽しくてしょうがないんです。

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毎朝行う太極拳が至福の時だそうですね。

飼い犬の散歩の後に、近くの公園で20~25分くらい太極拳の型を行って内部感覚を確かめたり高めたりするわけです。公園で行うので障害物がないんですよ。木が近くにあってね、流れる風や空気がとっても気持ちいいんです。これは何物にも変えられない喜びですね。やはり太極拳は屋外で行うのが一番ですよ(笑)。

お弟子さんはどういったものを求めて入会して来られますか。

最初は強さを求めてくる方が多いです。しかし、私たちの練習では勝敗も決めないし、相手にダメージを与えるわけでもない。次第に「強さ」に対する興味が薄れてくるんですね(笑)。

そして徐々に自分の身体の使い方とか、自分の身体で培った力を相手に伝える技術に興味がわいてくるといった流れでしょうか。私自身、純粋に強さを求めるのであれば、キックボクシングや総合系の練習をしたほうが強くなると思っていますよ。

お弟子さんの人生において、中国武術がどのように役立ってほしいとお考えですか?

一番思うのは、武術の身体で日常生活を過ごしてほしいということです。地球に対して真っ直ぐ立って、楽に動けて、楽に重いものを持てて、押せて、引ける力。こういった力は相手と対立しない力なんですよ。

言ってみれば吸収する力ですね。私の武術は相手の力を受け入れて、吸収して、それを返す武術です。人間関係においても正面からぶつからないで、相手を受け入れ、吸収して、穏やかに生きてほしいと願っています。

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【川村賢 プロフィール】1959年生まれ。2012年より札幌太極拳練精会を発足。カイロプラクターとして身体構造にも精通。正しい身体操作に重点をおく指導は、理論的でわかりやすい。空手・キックボクシング等の他競技にも造詣が深く、プロレスラーとしての過去も持つ異色の武術家。圧倒的筆量のブログ「ロンの武術随想」は必見。

ジム・道場データ

西区体育館 所在地

東区体育館 所在地

中島スポーツセンター所在地

Photo & Text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。