BOUT-32ダイジェスト:山川賢誠、宿命の対決に終止符。トーナメント準決勝へ

ノースエリア格闘技イベント BOUT-32
2018年7月8日(日)札幌市・コンカリーニョ

2015年のあの日以来、止まったままだった時計の針が再び動き出した。この日、道内最強と目されながらも、アマチュア時代から一度も交わることのなかった二人の選手がついに激突。神童・那須川天心が返上したRISEバンタム級王座をかけた、王座決定トーナメントの一回戦として行われた大一番は、山川賢誠(同級4位/キックボクシングアカデミー札幌)が出口智也(同級6位/忠和會)の強打を完封し、危なげなく準決勝へと駒を進めた。

戦前から大きな注目を集めた一戦。チケットは早々に完売し、急遽、立見席を増設するなど運営側は対応に追われた。釧路から大挙して押し寄せた出口応援団に、負けじと対抗する山川応援団。両軍の殺気にも似た熱気が会場内に充満した。伝説の一戦、AKINORI vsパッカシット戦をも凌ぐ異常な盛り上がりをみせたメインイベントをはじめ、貴公子・AKINORIのKO復帰、世界チャンプ・TOMONORIのラストマッチ宣言など、話題満載だった今大会をダイジェストで振り返る。

メインイベント

▼RISE公式戦バンタム級3分3ラウンドEXR1R
・山川賢誠(同級3位/キックボクシングアカデミー札幌)
・出口智也(同級5位/忠和會)
勝者:山川 判定2-0

1R、サウスポーの山川はジャブと前足の前蹴りで出口の前進を阻む。芯を捉える前蹴りは角度が絶妙。出口の蹴りにカウンターで入ると、出口が吹っ飛ぶような格好でバランスを崩す場面も。出口は内もも・ハイキックなどを織り交ぜ、機を見て一気に距離を詰めてパンチの連打。山川は落ち着いてクリンチでやり過ごす。お互いに有効打はないが、山川が距離を制し、有利に試合を運んだ印象。

2R、パンチの比率を多くする山川。腰は入っていないもののワン・ツー・スリーまで手数がつづく。パンチの打ち終わりに必ず前蹴りがオマケでついてくるため、出口は攻めあぐねている様子。中盤、正直に前に出てくる出口に対し、山川は完全に距離を掌握する。出口がパンチで仕掛けるとサークリングでかわす。1Rのようにクリンチに逃げる場面が一切ない。両者ともにダメージを与える攻撃はなし。山川のラウンド。

3R、開始早々に出口が覚醒。中途半端に距離を許した山川に右フック一閃。一瞬、意識が飛んだ表情をみせた山川はクリンチに逃げる。ふりほどき、なおも連打する出口に大声援が飛ぶ。山川はここにきて温存していた左のミドル・ヒザを投入し、圧力を消しにかかる。出口は山川の蹴り終わりに、いいパンチを単発でヒット。一進一退の攻防がつづく。終盤に狂ったようにミドルを連打した山川。序盤の出口の優勢点を帳消しにしたところでゴング。山川が判定2-0で逃げ切った。

セミ・ファイナル

▼RISE公式戦バンタム級3分3ラウンドEXR1R
・拓也(同級8位/蹴空ジム)
・樺島峻太(リアルディール)
勝者:拓也 判定3-0

1R、両者ともに軽いパンチとローで様子をみる立ち上がり。樺島にスピードがあり、スリリングな展開。そのスピードをパワーと圧力で殺しにかかる拓也。パワーの差に戸惑いの表情を隠せない樺島。拓也は脚を左右に入れ替えたり、スーパーマンパンチを繰り出すなど、攻撃の的を絞らせない。樺島は拓也のフェイントと圧力に対抗するのが精一杯で、得意のカウンターまで手が回らない。

2R、拓也が前に出て樺島が下がる展開だが、拓也には空振りが多く有効打まではいかない。それでも飛びヒザなど大技の投入で観客を飽きさせない拓也。中盤に樺島が左フックからの右アッパーをクリーンヒットさせ、初めて拓也が後退する展開に持ち込む。なおも右ストレートをヒットさせる樺島。拓也も再度、ロープ際まで詰めるが、クリーンヒットの数でいえば樺島に分があったラウンド。

3R、挽回するべく猛然と襲い掛かる拓也。樺島は再び、圧力に対抗するだけで精一杯といった状況に。しかし、手数は多いがクリーンヒットの数が極端に少ないのが拓也の難点だ。中盤に拓也はボディブローをヒット。樺島は拓也の腰に抱きつき、かろうじてダウンを免れるといった状態に。なおも抱きつきが多い樺島に、レフェリーがイエローカード。これを境に樺島は一気に減速し、判定は3-0で拓也に。拓也が圧倒的フィジカルと連打で押し切った試合だが、単発のクリーンヒット数では樺島が勝っていただけに、納得がいかない表情で判定を聞いた拓也だった。

第二試合

▼BOUTルール・フェザー級3分3ラウンド
・熊谷麻理奈(J-GIRLSフェザー級3位/WSR札幌)
・中川梨香(大成会館)
勝者:熊谷 判定3-0

1R、両者ともに開始早々からローとミドルを駆使した激しい蹴り合い。ファーストコンタクトの圧力は互角といったところだ。中盤にむかって熊谷はローに対するカウンターの右ストレート、中川は上段への前蹴りを多用し主導権を争う。前日計量では「前蹴りでKOする」と豪語していた中川だが、熊谷は涼しい顔。

2Rになると熊谷のカウンターパンチが冴える。パンチで出てくる中川に、ひっかけ気味に合わせる左フック。大きく体勢を崩す中川。カウンターを警戒する中川は、手数を出したくても出せない状況に。チャンスとみた熊谷は、接近してのヒザも投入しポイントメイク。中川は新空手出身だけにパンチで主導権を握りたかったのかも知れないが、パンチのテクニックでは熊谷が一枚上手だった。パンチは影をひそめ、前蹴りやバックブローに頼らざるを得ない中川。主導権は完全に熊谷が掌握した。

3R、逆転を狙いパンチで切り込む中川だが、やはりカウンターを合わされ攻めあぐねる。この日の熊谷は距離感が抜群。中川が来なければ長い脚を利したミドル、来ればパンチのカウンターと、メリハリが最後まで途切れなかった。ゴングと同時にガッツポーズの熊谷。会心の笑みを見せる。判定は3-0で熊谷。ボクシングとムエタイ折衷の麻理奈スタイルが、成長著しい若手の台頭を阻止してみせた。

第一試合

▼RISE公式戦スーパーライト級3分3ラウンドEXR1R
・AKINORI(ライト級7位/蹴空ジム)
・吉田敢(BRING IT ONパラエストラAKK)
勝者:AKINORI KO 2R2’51

1Rから試合はヒートアップ。AKINORIは右ローと左ミドル、吉田はワンツーと前蹴りで持ち味を発揮。両者ともにスピードとキレをもった小気味良い打撃戦を展開し、第一試合から観客のハートを掴んだ。終盤にかけても手数は衰えず、両者ともに頭から突っ込む乱打戦に。AKINORIがハイキックを繰り出せば、吉田も飛びヒザで応酬。あっという間に過ぎ去ったラウンドだった。

2Rになると圧力を強めにするAKINORI。吉田は徐々に後退。ボクシングジムにも通い貪欲に技術を吸収しているAKINORIは、ダッキングなどの防御技術も使い、接近戦を制しはじめる。中盤に吉田のガードを割るAKINORIのアッパーがヒットし、やや腰を落とす吉田。終盤にはAKINORIの前進のしつこさに、イヤイヤをするように突き放す動作を繰り返す吉田。これでスタミナを消耗した吉田が劣勢に回り始める。

3R、AKINORIの右ローのダメージが蓄積した吉田は苦悶の表情。それでも渾身の右ストレートで打ち合いを避けない吉田に、場内からは大声援。中盤に左フックを被弾した吉田は、フラフラとダウンを喫してしまう。フックで倒れたというよりも、それまでの乱打戦のダメージが蓄積してのダウンだ。再開後も「来い」と手招きをする吉田は、打ち合い上等の構え。ニヤリと笑みを返すAKINORI。再び乱打戦に突入した両者に場内からは大歓声。最後はAKINORIがフックで2度ダウンを奪ったところでレフェリーがストップした。

TOMONORIがラストマッチ宣言

試合開始に先だって世界チャンプ・TOMONORIがリングに登壇。10月28日にホテル・エミシアで行われるビックイベント「BOUT-34」において、英国の王者・ポール・ダ・シルヴァと再戦することを発表した。シルヴァは2014年に行われたBOUT-20で敗れている因縁の相手。争奪タイトルは発表されていないが、欧州系メジャー団体の世界タイトル戦になると思われる。TOMONORI自身も「現役最後の戦い」と宣言しており、文字どおり全てをかけてのラストマッチとなる。
▲シウバとの因縁の再戦にすべてをかけるTOMONORI

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。