ノースエリア格闘技イベント BOUT-28
2017年9月3日(日)札幌市・コンカリーニョ
BOUTの会場に到着すると、必ず受付にいる二人の女性。通称「BOUTシスターズ」だ。
会場の外にいる彼女達は、会場内にいる我々よりもイベントの盛り上がりには敏感である。試合が見えないだけに、中から聞こえてくる歓声の大きさで、会場内の熱量を量るからだ。
そのBOUTシスターズがイベント終了後に「一体、どんな試合だったんですか?」と筆者に尋ねてきた。過去に体験したことのない会場内のボルテージを肌で感じたらしい。
道内きっての人気選手であるパッカシットとAKINORIが雌雄を決した大一番は、フルラウンドの激闘の末、AKINORIがパッカシットを2-0の判定で下し、感動的なフィナーレを飾った。
近年稀にみる盛り上がりをみせた今大会を、簡単ではあるがダイジェストで振り返ってみたい。
メイン・イベント
▼BOUT KICKルール65㎏契約3分3R
・パッカシット・W(WSR札幌)
・AKINORI(蹴空ジム)
勝者:AKINORI 判定2-0
戦前から多くの注目を集めた大一番。識者による勝敗予想では大方がパッカシット勝利と予想したが、誰一人として正解者はおらず、面子まるつぶれといったところだ。とくに最も過激な予想をだした筆者に至っては、AKINORIのファイトに脱帽するほかなく、この場をもってお詫びする次第である。
試合を振り返ってみよう。1R、先手を取ったのはAKINORIだ。アウトローキックが抜群のタイミングでヒットした。平静を装うパッカシットだが、ラウンド中盤には早くも蹴り足を掴みにいく。嫌がっている証拠だ。
このローキックをカットしなかった事が、パッカシット敗北の遠因だったと筆者はみる。ラウンド終盤、早めに勝負をつけたいパッカシットが動く。組んでヒザ、飛んでヒザ、怒涛のヒザ攻撃。身体をくの字に曲げて耐えるAKINORIに、明らかなダメージを感じた。一気に畳み掛けたいところだったが、パッカシットは詰めることができなかった。ここが勝負の分かれ目だったように思う。
2Rに入るとAKINORIの右ローキックがパッカシットの脚を変色させる。苦悶の表情をうかべ蹴り脚を掴みにいくシーンが目立つパッカシット。掴みにいけばパンチをもらう。パンチを警戒すればローがくる。ヒザにいけばカウンターの右ストレート。スタミナ勝負に突入するなかで、試合は徐々にAKINORIペースに傾いていった。
最終ラウンドは完全にAKINORIのラウンド。何度もロープに詰めて連打を見舞った。パッカシットも手数は出したが、それは印象点をカバーするもので、より殺傷力のある攻撃を繰り出していたのはAKINORIだ。
今回はBOUTルールで行われたが、ルール云々よりも「どちらがよりダメージを与えたか」という格闘技の原点にもどって考えれば、AKINORI勝利は妥当であったろう。
セミ・ファイナル
▼BOUT KICKBOXINGルールバンタム級3分3ラウンド
・がんばれ!ふるかわくん(GRABS)
・大崎草志(STRUGGLE)
勝者:大崎 2R KO 0’56
以前から参戦を噂されていたムエタイキラー・鈴木秀明氏率いるSTRUGGLEが、ついにBOUT初参戦。道内の玄人ファンにも感慨深いものがあったはずだ。
この日の大崎は、前日計量でみたガチガチに緊張していた男とは別人だった。水を得た魚のように、のびのびとリングを舞う。試合は2Rに大崎の放った左ストレートによって、ふるかわくんが壮絶に散った。
この大崎については今回がデビュー戦という情報もあったが、間違いだったのではないか。思い切りのいい蹴り、スピードと伸びのあるパンチ。デビュー戦とは思えない力量を感じた。
ふるかわくんも調子が悪かったわけではなかろうが、相手が悪かったと諦めるしかない。それに、これはお世辞でもなんでもなく、十分にスリリングで見応えのある試合だった。
負けて褒められるのも変かもしれないが、立派にセミ・ファイナルの仕事を果たしたと思う。プロとして恥ずべきものはなにもないだろう。
第三試合
▼RISE公式戦バンタム級3分3ラウンド
・末永愛士(蹴空ジム)
・池田進人(フリー)
勝者:末永 3R KO 1’01
正直、前日計量で池田がみせた決意みなぎる表情から、いかに天才児・末永といえども、今回は苦戦するのではないかと予想したが、モノが違った。とにかく、末永の目の良さと集中力が際立った一戦だった。
1R、池田が得意の蹴りで積極的にでる。空手出身の池田の蹴りは、変則的で見切りづらいはずだが、なんなくスウェイでかわす末永。蹴りが当たらないとみるや、パンチに切り替えて圧力をかける池田。
このあたりの圧力も強引かつ素早く、一瞬やりづらそうな表情を見せた末永だが、ラウンド終盤にはカウンターのタイミングを掴んでいる様子だった。この天性の勘は、山川賢誠のそれを凌ぐのではないか。
2Rに入ると、池田が一方的にロープを背負う展開。末永は、まるで予定されていたかのように淡々とパンチでダウンを奪った。彼の凄いところはダウンを取ったら、そのまま倒しきれる能力を持っているところ。結局、3度のダウンを奪って連続KO勝利を達成した。
さらに特筆すべきは、その殺傷力だろう。BOUT-27での相手方のタオル投入は、ナイスなタオル投入だった。今回も早い段階でのタオル投入でも良かったのではないか。
第二試合
▼RISE公式戦ライト級3分3ラウンド
・北濱精悦(TARGETSIBUYA)
・嶋田将典(StayGold)
勝者:北濱 KO 1R 2’24
北濱が前回の屈辱を見事に晴らした。対戦相手は非常に好戦敵なファイターとして知られる嶋田将典。前日計量の時点から「自分の蹴りに注目してほしい」と話していた嶋田は、ゴングと同時にミドルを中心に圧力をかける。
しかし、序盤で蹴り合いに持ち込めたのは北濱にとっては幸運だった。蹴りの相打ちになると、パワーで勝る北濱が蹴り勝ち、嶋田がしりもちをつく展開が多くなったからだ。北濱に気持ちの余裕が出始めたように感じた瞬間、結末は突然に訪れた。
筆者が見ていた方向からは角度が悪く、なんの技で決まったのかは定かではないが、パンチでダウンしたように見えた。うつ伏せでしばらく起き上がってこなかったことを考えると、ボディが効いて倒れたのかもしれない。とにかく、カウント途中でレフェリーが試合をストップする圧巻のKO劇だった。
前回はまさかの1Rノックアウト負けを喫したが、それを帳消しにする値千金の1Rノックアウト勝利。キック転向3戦目にして北濱らしい北濱が帰ってきた。
第一試合
▼BOUTKICKBOXINGルール67㎏契約3分3ラウンド(肘有)
・神代雄太(大道塾吉祥寺支部)
・滝口幸成 (WSR幕張)
勝者:滝口 2R TKO 1’23
北斗旗の体力別王者・神代がまさかのTKO敗。2Rにヒジで切られて、あっという間に散った。立ち上がりでセコンドから「相手、ヒジ狙ってるぞ」とのアドバイスが飛んだが、滝口のヒジをかわしきれなかった。
それにしても勝者の滝口は、前日の計量時までは「勝てないのはわかってるけど、なんとか善戦したい」といったニュアンスだったのである。しかしリング上でみせた彼の肉体は、そう言ってはいなかった。筋骨隆々の滝口の脚。そこから放たれるローキックに北斗旗の王者は何度もバランスを崩した。
上半身と下半身の連携がちぐはぐで、いつもの神代の動きではなかった。さしずめ、キックデビュー戦に棲む魔物が牙をむいたといったところか。ストップが宣告されたとき、セコンドについた飯村氏が発した断末魔の声が印象的だった。
いずれにしろ、このまま引き下がるのは大道塾王者のプライドが許さないだろう。BOUTにまた、新たなストーリーが生まれたといえる。
写真提供:BOUT実行委員会
photo & text:山田タカユキ

山田 タカユキ

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