BOUT-27・TOMONORI 対 エヴァン・ジェイズ | ISKAムエタイフライ級王座決定戦(中編)

2017年6月11日開催:BOUT-27
▼メインイベント
ISKAムエタイ世界フライ級王座決定戦3分5R

・TOMONORI(キック7冠王/OGUNIGYM)
・エヴァン・ジェイズ(同級世界4位・イギリス)
勝者TOMONORI:判定3-0
※TOMONORIが新チャンピオンに

BOUT史に残る消極ファイトに唖然

日本が世界に誇るタイトル・ホルダー、TOMONORIと、英国のムエタイ・エリート、エヴァン”ザ・エスター”ジェイズで争われたISKA世界ムエタイフライ級王座決定戦は、エヴァン・ジェイズ側のBOUT史にのこる消極ファイトによって、これまたBOUT史にのこる大凡戦となって幕を閉じた。

メインイベント前に行われた、神童・那須川天心が登場したエキシビジョンで会場のテンションがMAXに達した後だっただけに、そのコントラストが一層浮き彫りとなった一戦。試合結果のみをみればTOMONORIの判定勝ちで8本目のベルトを獲得したわけだが、精神的・技術的に全てを出し切ることを望んでいたTOMONORIにとっては、フラストレーションが溜まる内容だったに違いない。

ムエタイルール。静かな立ち上がり

試合を振り返ってみよう。この試合はムエタイルールで行われた5R。ムエタイスタイルを信条とする両者であれば、1、2Rは様子を見るのはお約束だ。TOMONORIは右のローキックと左右のミドル、エヴァンは左ミドルと右のストレートで様子をみる静かな立ち上がり。

TOMONORI陣営のセコンド・ボー氏は、最初にエヴァンの映像を見たときに4Rでノックアウトできると断言したという。TOMONORI自身も「それを鵜呑みにするわけではないが、削って削って最後は仕留めたい」と試合前に語っていた。しかしそれは、相手がファイターらしく正々堂々と戦いに応じた場合の話である。

故意犯、エヴァン・ジェイズ

ムエタイルールでは3、4Rの攻防がもっとも重要視される。当然、両者ともに前に出るかと思いきや、事件は起こった。エヴァン・ジェイズが執拗にロープを背にし、前に出ることを拒んだのである。エヴァン・ジェイズがとった行動はこうだ。遠間から左ミドルや右ストレートなどを出し、印象点を稼ぐ。これはダメージを与える目的ではないので、通常の距離よりも遠くにポジショニングしている。つまり、いつでもロープ際に逃げられるポジションを担保しているわけだ。

これだけでも真っ向勝負を避けている故意犯であることは明白だが、もっと悪質なのは下の画像のように自身とTOMONORIとの間にミドルキックのような体勢で脚をねじ込み、打ち合いを完全拒否する行為(筆者は”こっち来るなミドル”と呼んでいる)を再三再四にわたって繰り返したことである。

エヴァンにプロ意識はあったのか?

エヴァンはTOMONORIが打ち合いを仕掛けてくると見るや、途端にロープ際まで後退し、こっち来るなミドルを執拗に繰り返した。この体勢はロープにもたれかかって大きくのけ反ることができる。要するに頭部は完全にリングの外というわけだ。

長身のエヴァンにこれをやられると、打ち合いにならないどころか試合自体が成立しない。技術で魅了するムエタイを披露し、真っ当なアウトボクシングで打ち合いを避けたというのなら文句は言わない。しかし、このような方法で真っ向勝負を避けるのは、プロ意識に欠けていると言わざるを得ない。

本場タイ国はもとより、玄人ファンが集まる首都圏の会場で、メインで行われる世界戦の3、4Rにこんなマネをすれば大ブーイングが起こって然るべきなのだが、そこまで見る目のない札幌のファンの前では、TOMONORIまでもがこの大凡戦の共犯者にされてしまった。

「来いよ!」と声を荒立ててリングの中央へ誘うジェスチャーを繰り返すTOMONORI。直前インタビューでは、完全燃焼できる相手との出会いを切望していただけに、その対極に位置する男と対峙した心情たるやいかほどのものだったか。

TOMONORI、絶妙のポイントメイク

終盤、痺れをきらしたレフェリーが「アグレッシブに戦え」と発破をかけたが、エヴァンが方針転換することはなかった。さすがに呆れ顔のTOMONORIだったが、終盤は気持ちを切り替えて大技を投入、ポイントメイクを図る。

並みの選手であれば、このあたりのさじ加減を誤ると判定勝利を持っていかれる可能性もあったわけだが、そこはベテラン・TOMONORIの面目躍如といった試合運び。ストレートの判定勝利で、見事に8本目のベルトを手に入れた。

しかしエヴァンはなぜ、このような恥ずかしい行為を繰り返したのだろうか?推測するに、この試合はエヴァン側の計量失格のペナルティにより、エヴァン側が勝利した場合は王座決定戦ではなく、ただの国際戦となるルールだったからだ。

つまり、エヴァンは勝ったとしても世界王者にはなれない。そして、このようなケースでは全力を出して戦わない外国人ファイターは多いのである。「ベルトが手に入らないのなら、怪我をするのはバカらしい」というわけだ。

控え室で笑ったエヴァン

だが、契約体重を守れず多方面に迷惑をかけ、グローブハンデと減点スタートを免除してもらった恩義を少しでも感じているならば、せめて試合を盛り上げてイベントの成功に貢献するのが礼儀というものだ。たとえ怪我をするとわかっていてもそうするのが、職業選手としての心意気というものではないか。

ましてや、エヴァンの父親はイギリスでは名の通ったプロモーターなのである。そのへんの事情がわからないはずはない。彼は自分の主催する興行のメインイベントで、同じことをされても笑って許すのだろうか。

お国柄の違い、価値観の違いと言われてしまえばそれまでだが、釈然としない一戦であった。敗戦後の控え室で、スマホ片手に「ノーダメージだよ」と笑う少年。彼はファイトマネーだけはしっかりと頂戴したのだろうか?末恐ろしいとはこのことである。

次回は「BOUT-27・TOMONORI 対 エヴァン・ジェイズ | ISKAムエタイフライ級王座決定戦(後編)」と題して、リング上で行われたチャンピオンベルトの戴冠式と、勝利後の控え室での新チャンピオンの様子を写真とともにお伝えしたい。

「BOUT-27・TOMONORI 対 エヴァン・ジェイズ | ISKAムエタイフライ級王座決定戦(前編)」はこちら→

写真提供:BOUT実行委員会
photo & text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。