BOUT-26:後藤丈治vs出口智也戦を振り返る

ノースエリア格闘技イベント BOUT-26
2017年3月26日 札幌市・琴似コンカリーニョ

▼RISE公式戦57kg契約3分3R
出口智也
(バンタム級7位・釧路忠和會)
後藤丈治
(P’sLAB札幌)
勝者:後藤 判定3-0

完成していたシナリオ

後藤丈治の育て親・小堀祐師範とは、日頃からお茶をともにする仲である。彼とは同じ時代に現役生活を送ったこともあり、なにかと話が合う。話題にのぼるのはお互いの現役時代の昔話や、気になる対戦カードの勝敗予想といった他愛もない話だ。

雪がちらついた十月某日、この日も一ヵ月後に控えたBOUT-26の勝敗予想で盛り上がっていた。話が後藤vs出口の一戦に差しかかると、小堀氏は出口戦のために後藤に授けた作戦を熱っぽく語る。なんでも、出口戦で勝つためのシナリオがすでに出来上がっているというのである。

正直、デビュー二戦目の後藤が”あの”出口智也に勝てるという作戦を、真面目な顔で話す小堀氏が滑稽に思えた。道内最強の称号をもち、KOマシンと恐れられる出口にどうやって勝つというのか。デリカシーに欠ける筆者は「勝てるわけがない」と鼻で笑った。

BOUT史上に残る大番狂わせ

その途端であった。小堀氏は筆者をキッと睨みつけ「信じるしかないんですよ!」と、語気を荒げたのである。彼のそういった態度はあまり見たことがない。一瞬、その場が凍りついた。

結局、お互いに気まずいものを感じ、どちらからともなく話題を変えたわけだが、筆者は小堀氏が本気で後藤を勝たせるつもりだということ、そして周囲からは「勝てるわけがない」と言われ続け、やり場のないストレスを抱えていることを瞬時に理解し、心のなかで詫びた。

そういった背景もあり、この後藤vs出口戦は個人的にはメインイベントよりも興味深い試合、いわゆる「裏メイン」として筆者の中では位置づけられていたのである。結果は大方の予想を覆し、後藤が完封したといっても過言ではない内容で勝利した。今回はデビュー二戦目のルーキーが、RISEの全日本ランカーに完封勝利を収めるという、BOUT史上稀に見る大番狂わせを豊富な画像とともに振り返ってみよう。

▲前日計量でニアミスする両者。「勝てると言ってくれた人は一人もいない」と語った後藤。出口陣営は笑顔で後藤に声をかけていた。負けることはもちろん、苦戦するとも思っていなかったはずだ。

▲華やかな出口の入場シーン。青コーナーから刺すような視線を送る後藤が印象的。この後、自分の名前がコールされると何度もうなずいてみせた後藤。まるで「絶対に勝てる」と自分に言い聞かせているようだった。

▲両者、中央に歩み寄りレフェリーから注意を聞く。この日を楽しみにしていたかのような後藤の目。出口は一抹の不安を感じたはずだ。

▲ゴングが鳴ってからは、前手のジャブがよく出た後藤。前手のフックを引っ掛けるようにして使うサークリングも絶妙だった。

▲前脚での前蹴りも多用。構えたときと骨盤の角度が同じまま蹴るため、左ミドルを蹴り終わってすぐに前蹴りがくる。蹴り終わりを狙いたい出口は徐々に焦りの色を濃くしていった。

1R序盤、出口が飛びヒザを放って着地した一瞬を狙って左のストレートをヒット。出口はガクンと腰をおとし、一瞬方向を見失った。

▲「もっと蹴ろ」と指示が出ていたという左ミドル。1R終了時点でスネに血がにじむまで蹴っていたため、2~3Rはほとんど出番がなくなってしまった技だ。

▲主武器となった左のストレート。この試合で最も多用し、最も出口を苦しめた技。常にノーモーションで放たれ、最短距離で出口のアゴを狙い続けた。

▲別の角度から見た左のストレート。後藤は内・外と複数の軌道を使い分け、出口を苦しめた。

▲この勝利に最も貢献した技術がこのプッシング。出口の前進を何度も押し返してみせた。出口に敗北した選手との決定的な違いがこのテクニックだ。

▲出口の強打が空を切る。後藤は距離が詰まるとプッシングで押し返すか、サークリングで捌くかの判断が早く、中途半端な位置にいることがなかった。

▲インターバルで指示をだす小堀氏(右)。左下のペットボトルをもった方が884ボクシングジムの林達也会長。後藤のパンチ・テクニックに磨きをかけたのが林会長で、この日もセコンドについて数々のアドバイスを送った。

▲最終ラウンド、出口は起死回生を狙ったバックブローを放つ。出口のバックブローは強烈無比だが、ネタが尽きたことを白状したともいえる。冷静に捌く後藤は、それを察知していたのかもしれない。

▲終盤にかけてはテンカオ(カウンターのヒザ)も投入した後藤。ボディと顔面に打ち分けることを忘れなかった。

▲判定はジャッジ全員が後藤を支持する完全勝利。「勝てない」と言われ続けたフラストレーションを、一気に爆発させた後藤の雄叫びが印象的だった。

▲コーナーポストから観客の声援に応える。この勝利で昨年10月のパンクラス札幌大会での失点を帳消しにした。

▲圧倒的に不利といわれた試合をひっくり返した師弟。二人だけにしかわからない戦いが、そこにはあった。

写真提供:BOUT実行委員会
photo & text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。