黒ひげ、覚悟の入場シーン:BOUT-ZERO 1

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 6月下旬の某日、黒ひげ危機一髪!!とランチを共にし、あの日の激闘を振り返った。
始めに試合のダメージは抜けたかと問うと、最近まで頭が痛かったと語る黒ひげ。
「側頭部が痛くて寝返りが打てないんですよ。目ヤニもすごく出たし。こんなの初めてですね。ちゃんと検査に行けば良かった」と自嘲ぎみに笑った。

5月26日、BOUT陣営の先鋒として登場した黒ひげ。
参戦した選手の中で、入場シーンだけで観客を魅了したのはこの男だけではなかったか。
タカのような鋭い目つきでリング上の小崎を睨みつける。
以前のように、恥ずかしげに入場してくる黒ひげはそこにはいなかった。

彼の入場によって、それまでの喧騒がピタリと止み、一瞬にして場内が緊張に包まれてしまうほどの覚悟の入場シーン。「あんな黒ひげ、いままで見たことがない」grabsのTOMONORI会長も後にそう語ったと聞く。

入場時から対戦相手を睨みつけることができるということは、充実したトレーニングができていた証拠だろう。そんな黒ひげを見て、能力を100%発揮できる状況にあるとすぐに感じた。
1R開始のゴングが鳴ると試合は早々に動く。
カウンター気味に入った黒ひげの右ストレートで小崎の腰がガクンと落ちた。そのままラッシュをかけるとレフェリーがすかさずダウンを宣告する。
「白状すると、自分でも驚いてました。でもセコンドが一番驚いていましたよね(笑)」

黒ひげは再開後も猛攻を仕掛ける。
しかし、あと一発いいのが入れば流れを引き寄せることが出来る、そう思った矢先だった。
黒ひげがローキックを蹴るために1本足になったところに、小崎の右ハイキックがタイミング良くヒット。ダウンを奪い返されてしまう。

黒ひげが試合を通して全く見えていなかったのが、この右ハイキック。何度も喰らい続けたが、特に最初のダウンを喫したときのハイキックは痛烈だった。
神経伝達が瞬間的にシャットアウトされ、腕の自由がきかないまま受身の取れない体勢で崩れ落ちた。そのままテン・カウントを聞いてもおかしくない倒れ方だったが、黒ひげはよく立ったものだと思う。

敵陣の先鋒、小崎も見所のある選手だった。今回来札した3人の中では一番の将来性を持っていたのではないか。しかも35歳の黒ひげに対し、一回りも年下の小崎は”若さ”という最大の武器がある。
もとより、本来のフライ級で相手が見つからなかった黒ひげは、一階級上の契約体重で戦わざるを得なかったという背景があったのだ。 

1R終盤にも同じ右ハイキックで2度目のダウンを取られる黒ひげ。前のめりに倒れるダメージの残る倒れ方だ。
3ノックダウン制で行われたこの試合、あと一度ダウンを喫すれば万事休すといった状況で、時間は1分以上も残っていた。絶望的な空気が会場を支配していた。

しかし、そんな会場の空気をよそに、黒ひげは驚異的な粘りを見せる。
「作戦というよりも、思い切りブン殴れって感じでした(笑)」
二度のダウンを奪われ、逆に吹っ切れたのか、先ほどまでの硬さが取れたようにも思えた。
三発、四発と手数がつづく。終盤には小崎にロープを背負わせる場面もあったほどだ。

圧巻だったのは、続く2Rの1分過ぎ。小崎をコーナーに釘付けにし、パンチとローキックでメッタ打ちにした場面だ。筆者同様、本気で逆転サヨナラKOを夢見た観客は少なくなかったのではあるまいか。観客の胸に強烈に焼きついた、この日一番のハイライトだった。

今回の試合で小崎がクリーンヒットさせた攻撃は実に41発。凄まじい数だ。
だから、最後の上段膝蹴りを喰らって倒れた黒ひげには
「もうわかった。立たなくていい」
そんな声をかけてもいいくらいだった。
ふらつきながら立ち上がった黒ひげを見て、試合をストップしたレフェリーの判断は妥当であったろう。

黒ひげは最初のダウン以降、試合中の出来事を憶えていないという。
試合中、意識を無くしながらも二度のダウンから生還し、驚異的な粘りをみせた黒ひげに、その原動力となったものはなにかを問うてみた。
すると黒ひげは、ジムの会長をはじめとするジムメイトと、応援に駆けつけてくれた友人・知人の存在を挙げた。

当日の会場には黒ひげの友人・知人が大挙して来場。中には失業中で経済事情が厳しい中、わざわざ駆けつけてくれた仲間もいたという。
「嬉しかったです。すごく。だから、なにがなんでも期待に応えたかった。なにより会長の喜ぶ顔が見たかったし」
そんな黒ひげらしい答えが返ってきた。

今回の黒ひげの戦いを、この日のベストバウトに挙げる関係者は多い。
「勝って光るのは当たり前。負けて光るのはなかなか出来ない事。その意味ではプロとして合格です」とBOUTの小堀プロデューサーも黒ひげの戦いを評価する。

負けてなお印象に残る選手は少ない。
小崎ももちろん魅力的な選手だったことに違いはないが、それ以上に黒ひげの散り様が観客を魅了した一戦だった。
北海道のファンは、この黒ひげ危機一髪!!というキックボクサーをもっと誇りにしていい。
筆者もこの日の猛追劇を生涯忘れないだろう。

写真提供:BOUT実行委員会
photo & text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。