蹴空ジムの強さの秘密に迫る①~選手絶叫の”龍の穴”へ潜入 | Gold Valley Gym 金谷丈二さん

道内最強のキックボクサー集団・蹴空ジム。神童・那須川天心が主戦場とするメジャー団体「RISE」のリングにおいて、全日本ランキング入りや新人王タイトルの獲得、アウェイでの上位ランカー撃破など、その活躍は道内だけにとどまらない。

蹴空ジムの強さの秘密はどこにあるのか?取材を進めるうちに二人のキーマンの名前が浮かび上がった。月寒ジム代表トレーナー・長田敏和氏とフィジカル強化を担当するパーソナルトレーナー・金谷丈二氏だ。

そこで今回は「蹴空ジムの強さの秘密に迫る」と題してお二人にインタビュー取材を敢行。まず第一弾としてパーソナルトレーナー・金谷丈二氏のインタビューと共に、蹴空ジムの強さを底上げしたフィジカル・トレーニングの模様をお届けする。

▲こちらが金谷氏丈二氏。心が変わることこそがトレーニングと語る

立ちはだかる治療家としての限界

金谷先生は現在、パーソナルトレーナーとして蹴空ジムをバックアップされていますが、本来は整復師、つまり治療家だそうですね。

元々のベースは治療家ですね。だから僕には人の身体の構造がよく見える。治療家時代に培った経験が今に活きてるんですよね。

現在のようなパーソナルトレーナーへ転身したきっかけは何かあったのでしょうか?

整復師時代、整形外科の病院に8年半勤めさせてもらったんです。そこでリハビリの仕事をさせてもらってね。ただ、患者さんも若いうちは治る力が強いので、ある程度治療したら治るんです。

でも、年を取っていくと治らなくなってくるんですよ。高齢化が進むなかで、体が戻らなくなってくる。結局、治療といってもその場しのぎの対処療法になってしまうんですね。それが僕の中で歯がゆさとしてあったんです。

マッサージをしてもちょっとだけ痛みが取れて、また元に戻ってしまう。その先にあるのが介護の現状ですよね。動けなくなって寝たきりになったり、痴呆になったりとか。そういった現状をたくさん見てきたわけです。

そんな壁にぶち当たるなかで「これは違うな」っていうのが僕の中にあった。結局、治療というのは「受け身」のスタイルじゃないですか。これは自分が意思を持って「能動的に自ら動く」というアクションがない限り、現状を変えられないと思ったんです。

▲金谷氏が多用する秘密兵器・レッドコード。3Dな訓練を可能にする

「生きる」その根源に立ち返る

先生が行うトレーニングは、まさに「能動的に自ら動く」ということですね?

そうです。僕はあくまでサポートしているだけだから、受け身ではないですよね。根本的に自分を動かして身体を鍛える事によって自然治癒力を高める。または、自分の枠組みを作り直す事によって若返ってくる。そこなんですよね、大事なのは。

いつ頃から治療の道を志したのでしょうか?

すこし話が逸れるんですけど、僕は高校を卒業してから5年間、農業に携わったんです。周りはみんな大学へ行ったんですけど、自分の中では「大学に行ってそこから何をやりたいんだろう」みたいな迷いがあったんですね。今の状態で大学行っても意味がないなと思った。

とにかく「生きる」とは何なのか、その根本に立ち返りたかったんです。生きるということは命を繋ぐということ。つまり「食べる」ということですよね。

そう考えたときに、漁業であり農業でありっていう、根源的な部分に行き着いたんです。そこで生活してみたら何かが見えるんじゃないかなって。生きることの本質がね。それで農業の世界に入ったんです。

▲取材当日はアマ選手も参加。正しいフォームを授ける金谷氏。

農家から治療家へ異色の転身

では農業やってる時に治療家になるきっかけがあったんですね?

そうなんです。農業の請負先などを探してくれた恩師がいましてね、収穫時期になると収穫した野菜を恩師のところまで届けにいってたんです。そうしたら、たまたま恩師の同期の方がお客さんで来てて。その方が治療家だったんですよ。

農業をやっていると膝が悪い腰が悪いという人がいっぱいいたんです。無理な姿勢でずっと同じ作業をしてるから。僕自身、そういった状況をなんとかできないのかなっていうのが常に頭の中にあって。

それで、その方からいろいろとお話を聞いた時に、農業は後々でもできるけど治療の勉強は今しかできないなって思ったのが始まり。それで札幌に来て、昼は整形外科で働いて夜に専門学校行きながら3年間学んだわけです。

現在も整復師としてのいわゆる「受け身の治療」を行っているんですか?

やってないです。完全に移行しました。ただ、大きな怪我をした時などは別ですよ。そういった時は治療をします。でも基本的には自分で身体を動かす、自分で修正するという事ですね。

▲レッドコードを使い重力をコントロールする。まるで重力の魔術師だ

「心を見る」のがトレーナーの仕事

今はアスリート専門で指導されてるのでしょうか?

いえ、客層としては一般の方の方が圧倒的に多いです。30代・40代の方から、最高で70代の方まで。若い頃ってある程度運動するじゃないですか。自分でアクティブに動かれる方が多い。でも、一時代を生きて退職した後というのはパワーがどんどん落ちていくんですよ。

そこでもう1度カラダを目覚めさせるっていうのが僕のトレーニング。僕の中では「死」というものがネガティブであってほしくないんですね。生きてる間はずっと動けるという状態を作りたい。だからトレーニングするということは心が変わるということ。意識が変わってポジティブになるということですね。

心が変わることこそがトレーニングの本質だと。

その通り。心を診ることがトレーナーとしての仕事だと思っています。

今、トレーニングに来てる70代の方も、僕がミットを持って普通にボクシングをさせますからね。女性の方もとてもアクティブな方が多くて、「すごい楽しい!」って喜んでます。「パンッ」て鳴る時の音がすごい気持ちいいって。とにかく皆さん、自信を取り戻して躍動感がめちゃめちゃ凄い。

そこは2ヶ月で痩せるといった高額系ジムとの違いですよね。金谷先生の場合は「心の変化にコミットする」ということですから。

パーソナルトレーニングというと、わからない人にはどれも同じように見えるでしょうね。でも、体感してもらうとわかっていただけると思います。僕のトレーニングはあくまで「自分への挑戦」なんだと。僕らって「これでいい」と思ったら、そこで成長が止まっちゃうでしょう?でもチャレンジするという意識、「もっとこうなりたい」っていう欲を出すということは非常に大切だと思うんですよね。

▲独自の強化トレーニングを選手に課す金谷氏。その表情は厳しい

キックボクサーたちとの出会い

蹴空ジムの選手への指導について話題を移しますが、選手との出会いも金谷先生のところに来ていた一般クライアントさんからのご紹介だったそうですね。

そうです。一般のクライアントさんが選手を連れてきてくれて。最初はたしか・・・拓也選手でしたね。拓也選手が最初で、それからAKINORI選手なんかも指導するようになりました。そうしたら蹴空ジムの伊藤会長が「うちの選手がお世話になってます」ってことで挨拶しに来てくださって。

そこで北区体育館でも練習しているので、まとまった人数を指導してもらえないかというお話をいただいて、集団での練習もサポートさせていただくようになりました。北区体育館は広いスペースがあるので、動けるトレーニングができるんですよ。自分のジムではパワー系のトレーニングをやって、北区体育館の広いスペースでは、足からの動きでパワーを連動させるような種目を行っています。

プロのキックボクサーの身体能力というものを見てみてどう感じましたか?大した事ないなって思うのか、結構やるなって思うのか、どっちでしたか?

基本的にやった事がない動きってできないんですよ、人間って。とくに僕のトレーニングでは、完全に空中に浮かせたりとか3Dな種目が多いんです。だから初めはやり方がわからないだろうし、できなくて当たり前だろうなっていうのはありましたね。

▲接地点は片手のみ。空中に浮いた状態で身体を捻る。絶叫する拓也

いかにして出力を上げるか

トレーニングはどんな流れで行われますか?

まずは一通りやらせてみて、ここの筋肉が使えてないんだなとか、ここを使ったらもっと動けるのにっていうのを僕の頭の中でスキャンしていくんです。「ここを使えるようにすれば、この動きがもっと強化できる」みたいに具体的なイメージを作っていく。あとはキックボクシングの競技特性ってあるじゃないですか、この競技はこういう動きをする時にここをもっと使えばとかね。

一応、基本のベースは股関節と肩。このふたつはクロスラインで動いてるんですけど、実質、使えてるようで使えてないんです。僕のトレーニングでは、それを使えるようにするための神経をピンポイントで繋げるので、身体が目覚めるんですよね。

キックボクサーに限っていえば、具体的にどこを中心に鍛え上げてきましたか?

”いかに出力を上げるか”ということに焦点を絞っています。

馬力という事ですか?

そうですね。最初の頃はパワーという部分の筋力、まさにトレーニングイコール筋力みたいな部分があったんです。ところが長年やっていると、そうじゃないんだなってことが分かってきた。単純な力だけじゃダメなんですよね。やっぱり力の伝え方なんですよ。スピードとインパクトがいかに大事かっていうこと。

そしてそれは全部足から来てるということなんです。そこがみんなできてないんですね。拓也選手にもいつも言ってるんですが、頭では理解してるんだけど神経の回路が繋がらない。どうしても手から行ってしまう。大切なのは足からなんですよ。足とお腹から、そして身体全体に繋がるというのができるようになれば一気に変わるんですけどね。

▲中吊りエクササイズも。徹底的に重力に逆らう。拓也は再び絶叫

カギは「足からの力の伝え方」にある

ガチガチのウェイトトレーニングにはどういったお考えをお持ちですか?

キックボクシングに限っていえば、腕力は必要ないと思っています。逆に胸板が厚い選手はインパクトが弱い。スラッとしてる選手の方が怖いですよ。動きが早いしインパクトが強いから。要は身体をうまく使う選手なんですよね。

じつはAKINORI選手にトレーニング指導を始めて、最初の試合が麻原将平(当時のランキング1位)戦だったんです。あの試合で負けたじゃないですか。あの試合が「大事なのはパワーじゃないんだ」って痛感させられた試合だったんですね。

それからというもの、スカパーなんかでトップ選手の動きや暮らしぶりを見て、キックボクシングの競技特性といったものを研究しました。そこで分かったのが、足から力を伝えるという意識なんですよ。

それで東京で新しいトレーナー資格を取って、ムーブメント、動きの中のトレーニングというものをさらに追究したんです。それが今やってるオレンジのロープを使うトレーニングなんです。あれがまさに競技に直結する動きなんですね。出力を上げながらも、その出力を動きの中で使えるという。

格闘家への指導で実績を出しているトレーナーの意見を聞くといったこともされたんですか?

僕の場合、人から教わるのは基本だけです。本当にベーシックな部分は教わるんですけど、後は全部自分で研究して学びます。そうじゃないと自分でクリエイトできないんですよ。人から教えてもらうことに慣れると、自分の脳を使ってクリエイトできなくなりますから。

▲こちらもキツい。足はもちろん浮かせている。仁王立ちの金谷氏

強さのカギは「力の伝え方」にある

基本だけをびっしり学んで、後は自分で応用していくスタイルなんですね?

そうです。僕には治療家のベースがあるので、身体の構造がわかるじゃないですか。後はその競技のムーブメントさえ見れば、自分でXYZの軸を作れるんですね。どうやってどうやったらどこに負荷がかかるのかが全部見えるので、自分の空間で身体を動かしながらポジショニングできちゃうんですよ。

なるほど。だから試合映像などで選手の動きを見れば、答えを導き出せる。

そうです。この選手はこの部分を使って強い動きに繋げているんだなとか、そこからさらに動いてこういう風に蹴るんだなとかね。要は神経と筋肉の連動ですよね。

金谷先生は最近では試合のセコンドとしても帯同しておられますが、「指導の成果が出たな」と実感した試合、印象に残った試合がありましたら教えてください。

そうですね、最近では3月に福岡でやった拓也選手と小崎選手の試合。なぜかってスピードとテクニックでいえば、小崎選手のほうがはるかに上でしたから。でも拓也選手は距離を詰めて、小崎選手の得意な攻めをさせなかった。フィジカルトレーニングをやって1番結果を出してるのは拓也選手だと思いますよ。

敵地で、しかも相手は地元の次期エース。よく勝ちましたよね。

敵地だし相手が格上だったので、厳しい戦いになるとは思っていました。じつは2ラウンド目でいいパンチを喰らって、目の焦点が合ってなかったんですよ。「あっこれやばい、やられた」って思った。でもそこから意識を戻しましたからね、彼は。やっぱりここまで懸命にやってきた気持ちが出たんですよ。フィジカルを徹底的に鍛え続けた成果を体現してくれたんだと思いますね。

▲選手の頑張りにはこの表情。選手の苦労が報われる瞬間だ

リング上の表現者たれ

選手の向上心に触発されて、トレーナーの指導にも熱がはいる。それも大切なファクターですね。

まったくです。結局は選手自身の意識の高さなんですよね。とくに拓也選手は勉強熱心でいろいろと研究してるから。他には蹴空ジム生じゃないけど、TEAM urespaの平賀正孝選手とかね(※TEAM urespaの平賀正孝も金谷氏に師事している)。

彼らはものすごい一生懸命だし、身体が効いてる感じを体感して「うわー効いてる!」って喜ぶんです。効いてるっていうことは身体にとって「目覚め」なんですが、それを喜ぶんですね。悲鳴をあげながらも喜んでる。彼らが1番、僕のトレーニングのことを理解してると思います。

平賀選手は5月のパンクラス札幌大会への参戦が決定済み、拓也選手は7月のBOUTへの参戦が濃厚です。最後に選手たちへ一言、贈っていただけますか。

彼らはリング上での表現者だと思うんです。リングに上がるということは、彼らがリング上で生き様を表現するということ。観客はそれを見て感動する。彼らは人を感動させるだけの情熱を持っていますよね。生き様が中途半端じゃない。「上を目指す」という発言と行動が伴っているんですよ。

もちろんそれは勝ち負けに関係なく、戦ってる姿で伝わってくる。本当にやってる人間の生き様って、見てる人間の心に”ガツン”とくるじゃないですか。次の試合も感動を呼ぶファイトを期待しています。

今回は素晴らしいお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

【金谷丈二 プロフィール】1975年、室蘭市出身。喘息持ちだった虚弱体質を柔道で克服したことが格闘技との出会い。柔道整復師専門学校を卒業後、整復師として活躍。現在はパーソナル・トレーナーとして自身のジム・Gold Valley Gymを経営し、一般からアスリートまで幅広い年代を指導。格闘技関係では蹴空ジムの選手を指導し躍進の原動力となった。血液型はA型。趣味は龍にまつわる神社めぐり。信念は「逆境に屈しない心」

ジム・道場データ

取材協力:蹴空ジム
photo & text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。愛読書はさいとうたかおの「鬼平犯科帳」。
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