山川賢誠は狼であったか? | 団体の過剰プロテクトにみる弊害

ノースエリア格闘技イベント BOUT-32
2018年7月8日(日)札幌市・コンカリーニョ


▼メインイベント
RISE公式戦バンタム級3分3R EX1R
・山川賢誠
(同級3位/キックボクシングアカデミー札幌)
・出口智也
(同級5位/忠和會)
※勝者:山川 判定2-0

BOUT創設10余年の総決算は、ご当地名勝負どまり

戦前から多くの注目を集めた一戦、山川vs出口戦が終わった。

注目された理由は2つ。この一戦は名須川天心が返上したRISEバンタム級のベルトを争って行われる、王座決定トーナメントの一回戦であったこと。そして道内最強と目されながら、アマ時代から一度も拳を交えたことがない両者の初対決であったということだ。

しかし筆者としてはもう一つ注目するポイントがあった。それはBOUT創設10余年の総決算として、両者がどのような戦いを見せてくれるかということである。

ご存知のとおりBOUTは道内ジムに所属する選手が、道内で開催される興行を主戦場としながら、本州勢とも互角に渡り合える実力を身につけることを目的として創設されたイベントだ。「道内ジムから全国区のキックボクサーを」これがBOUTの理念と言ってもいい。

創設から10余年、BOUTは永山敬之をはじめとして石澤大介、AKINORI、山川賢誠、出口智也、拓也など数多くの全日本ランカーを輩出してきた。しかもマイナー団体ならいざ知らず、国内有数のプロモーション「RISE」のリングにおいてである。これは格闘技不毛の地・北海道においては特筆されるべき事柄であろう。

そういった背景があるなかでの山川vs出口戦だったのである。日本中のファンが注目する神童・那須川天心のベルトを賭けたトーナメントに、道内勢が2名もエントリーし雌雄を決する。前述の理念と照らし合わせても、BOUTにとってこれ以上の晴れ舞台はなく、まさに創設10余年の総決算ともいえる一戦だったのではないだろうか。

本州のイベント関係者も多数訪れるBOUTの会場で、道内ジム所属の二人の選手が、節目に相応しい戦いをどのような形で見せてくれるのか?ここが筆者の最も注目したポイントだったのである。

▲ファン待望の初対決を終えた山川賢誠と出口智也。山川が危なげなく判定勝ちをものにしたが・・・・。

山川賢誠は”狼”であったのか?

だが、その戦いは「ご当地名勝負」と呼ぶに相応しい内容であったと言わざるを得ない。たしかに試合は盛り上がった。場内は沸きに沸いた。しかしそれは両陣営の応援団が大挙して来場していたからであり、自分の知っている選手が目に前で戦っているから盛り上がっていたに過ぎない。

この試合を後楽園ホールでやったら、間違いなく「なんじゃこりゃ?」となる。「これがRISEの3位と5位の試合ですか?」と。今回の一戦を見て

「王座決定トーナメントに相応しい試合」
「さすがはBOUTの選手」

そんな感想をもった本州関係者はいないだろう。では、問題はなんなのか?それは山川の消極的なファイトスタイル、いや、消極的な思考にあるといっていい。

打ち合わないなら打ち合わないでいい。アウトボクシングに徹するなら徹するでいいのである。しかし、そこには真剣で切り合うような緊迫感があって然るべきだ。だが、この日の山川にはそれはなかったと思う。そこには準決勝への切符ほしさに、ひたすら安全運転に徹する男の姿があっただけだ。

以前、素人がボクシングの元チャンプと対戦し、顔に一発でもパンチを当てれば賞金が出るといった趣旨のTV番組があったが、この日の山川もこれに通じるものがある。つまり戦士の戦いではなく、一種の大道芸にカテゴライズされるもので、これでは引退を覚悟で挑んだ出口にも礼を欠くというものだ。

山川のキャッチフレーズは「白狼」だが、この日の山川が狼であったかどうかは考えるまでもないだろう。

▲試合前は「出口君には何もさせない」と豪語していた山川。たしかにその通りにはなったが・・・・。

鍵はプロテクトからの精神的自立

では、なぜ山川は消極的な思考に陥るのだろうか。それはBOUTのプロテクトから自立できていないからだと筆者は推測する。じつは山川賢誠という選手はBOUTのプロテクトに依存し、前もって敷かれた安全なレールの上を走ってきた選手なのである。

これまでもBOUTは山川の対戦相手を決定する際、ファイトスタイル的に相性のいい選手、負けるとしても戦歴に傷がつかない選手を細心の注意をはらってチョイスしてきた。もちろんRISEの登竜門であるRISING ROOKIES CUPなど出場していないし、出場させなくてもランキング入りをさせる力がBOUTにはあるのである。

別段、それが悪いといっているのではない。アマチュアと違ってプロの世界では珍しいことではないし、むしろ日常茶飯事といってもいいことだからだ。問題はそのプロテクトから自立できる選手とできない選手に分かれるということだ。

自立できる選手は団体のプロテクトが及ばない事態でも、自分の実力だけで乗り切ることができる。逆に自立できていない選手は自分の実力だけで勝負することに自信がもてず、「負けたらおまえに価値はない」という悪魔の囁きに怯えた結果、消極的な思考・ファイトスタイルに流れてしまうのである。

山川はどうかというと、間違いなく後者だろう。だから、2月にKO負けを喫した篠塚辰樹戦のような団体のプロテクトが及ばない試合には滅法弱い。その点、9月に行われるトーナメント準決勝は、山川にとっては精神的に楽な試合だ。勝てば大儲け、負けてもそれほど傷がつかない試合だからである。しかし今の山川にとって必要なのは、そういった”おいしい試合”なのだろうか?

▲BOUTからのプロテクトから卒業し、「狼の眼」を取り戻せるか?

白狼・山川賢誠は誕生するか?

筆者が蹴空ジムの拓也をサイト上で賞賛するのは、彼がBOUTのプロテクトから最も自立した選手だからだ。もちろん、優先的に試合のチャンスに恵まれること自体、BOUTの恩恵を受けているわけだが、それ以外であればRISING ROOKIES CUPを実力で制し、その後もロシアン・ルーレットさながらに決められる対戦相手を、ホーム・アウェイにかかわらず自分の実力だけで撃破してきた。

だからBOUTのプロテクトの上に成り立った山川の3位より、実力でもぎ取った拓也の8位のほうが、よっぽど価値があると個人的には思っている。ファンが山川のことを白狼といって持ち上げるのは勝手だが、白狼などまだ生まれてはいない。生まれるのはこれからなのではなかろうか。

そのために必要なのはBOUTのプロテクトからの精神的自立である。それを達成する一番の方法は、ズバリ、篠塚辰樹との再戦だろう(もちろん筆者がここで吼えたところで、どうなるものでもないが)。株価が下落している篠原との再戦は、山川にとって”おいしい試合”ではない。むしろ相性的に返り討ちに遭う可能性が十分にあるし、負けた場合は山川の株価が大きく下がる。

しかし、このようなリスクしかない試合を実力で潜り抜けてこそ、プロテクトからの精神的自立が達成されるのである。その時こそが白狼・山川賢誠の誕生する瞬間なのだ。筆者は篠原に刺し違える覚悟で向かっていく山川を是非とも見てみたいと思う。おそらく、ファンの気持ちも同じであるに違いない。

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山田 タカユキ

山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。
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