まぼろしの大金星・石澤、判定に泣く:BOUT-15

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シュートボクシング公式戦
エキスパートルール60キロ契約3分3R

・末廣智明
(2013北斗旗全日本空道体力別選手権大会優勝、大道塾吉祥寺支部)
・石澤大介
(RISEスーパーフェザー級6位、パラエストラ札幌)
勝者末廣 判定2-1

和製ミルコ、今回の仕事は…

道内で活躍する格闘家のなかでも、屈指の人気選手に成長した“和製ミルコ”石澤大介。今回、石澤に課せられた仕事は、「死んでこい」としか言いようのないマッチメイクであった。グローブを交えるのは泣く子も黙る超実戦派集団、あの”大道塾”の現役王者・末廣智明である。

末廣の戦歴がこれまたすごい。国内有数のタフ・トーナメント「北斗旗」を制したのを皮切りに、RISE、M-1、REBELS等の主要団体に殴りこみ。大会パンフレットに記載されたスポーツライター布施鋼治氏の解説によれば、小宮山工介、板橋寛、中須賀芳徳、前田尚紀など、そうそうたる面々を下している。

石澤に末廣の存在を以前から知っていたかを問うと、「知りませんでした」という答えが返ってきたが正解だろう。この世界、知らないほうがいいこともある。末廣という選手はそれほど危険な選手だったのである。

あのレジェンドも来札

その末廣が師事するのは、大道塾の吉祥寺支部を率いる飯村健一氏。現役時代はもとより、指導者に転身してからも輝かしい戦績をのこす44歳の鉄人だ。今年5月に行われた北斗旗全日本空道体力別選手権大会においても、弟子の末廣とともに出場クラスを制した、れっきとした大道塾の現役王者である。

今回、その飯村氏も末廣のセコンドとして来札。リング上でするどい眼光を光らせる飯村氏を見て、感慨にひたったファンも多かったのではなかろうか。

試合とは別に、このようなサプライズ・ゲストで観客を魅了するのもBOUTの特徴だ。今回の飯村氏の他にも、キックの神様・藤原敏男氏、シュートボクシング協会会長・シーザー武士氏、チームドラゴンの前田憲作氏など、ファン唾涎のサプライズ・ゲストをさり気なく招いているところが憎い。

末廣、危険技を続々投入

さて、試合は1Rから末廣ペース。開始1分ほどは石澤も喰らいつく姿勢を見せたが、中盤には末廣の左ミドルの前に完全にペースを掌握されてしまう。末廣の左ミドルは、いわゆる“回し蹴り”ではなく、正面からドライバーのように垂直に力が加わる。

前蹴りと混ぜ合わせて蹴られると、“ヒザブロック不要主義”の石澤にはなす術がない。「この時点で、腕が痺れて使い物にならなかった」と語る石澤は、腕から背中にかけてを真っ赤に変色させながら戦い続けた。 末廣は2Rに入ると、危険技”タイナー”の投入を始める。

タイナーとは、相手の蹴り足をホールドした状態でロープに押し込み、ロープと自身の膝蹴りとで、相手の身体をサンドイッチしてしまう技だ。その危険度ゆえに、海外では禁止技としているリングもある。

末廣に起きた異変とは…?

そんな危険技の集中砲火をかいくぐり、命からがら自軍に引き上げる石澤。だが、意外にもボディブローに手応えを感じていたという。

「ボディを叩いた時、明らかに呼吸がもれていた」

そんな石澤の証言が裏付けるように、インターバルで見せた末廣の表情には覇気がない。そうして迎えた3R、石澤は決死の反撃を試みる。それまで石澤に何もさせなかった末廣がロープを背負う場面がでてきた。

まるで精密なコンピューターに狂いが生じたかのような展開だった。流れを修正したい末廣は、退くまいと暴れる石澤を無理矢理ロープに押し込むが、そのとき不自然に身体が開いてしまう。その瞬間であった。石澤の左フックが末廣の顔面を打ち抜いたのである。

腰から崩れる末廣。関係者の度肝を抜いた衝撃のダウンだった。すぐに立ち上がり「効いてない」というジェスチャーを見せるが、単なるフラッシュダウンでないことは明らかだ。

BOUT史上、最も「おしい!」場面

再開後も追撃の手を休めない石澤は、ここで“伝家の宝刀”ハイキックを繰り出す。もう半歩踏み込んでいれば、5.26の再現もありえた角度だっただけに悔やまれる当たりだった。結局、判定は2-1で末廣が逃げ切った。しかし大道塾が誇る打撃のスペシャリストが、他競技で活躍する選手にダウンを奪われたことの意味は大きい。

ご存知のように、石澤は総合格闘技「修斗」のリングで活躍するファイターだ。しかも、この日の石澤は計量オーバーによる減点1とグローブハンデというペナルティがあった。その石澤からダウンを奪われ、ジャッジの1票を持っていかれた。末廣が試合後のインタビューで語った「負けたのと同じ」という言葉は本音であったろう。

しかし一方の石澤が褒められるかといえばそうでもない。「純粋に打撃の道を追究してみたい」と語る石澤は、MMAの試合が決まるまでの“腰掛け試合”で打撃戦を行っているわけではないはずだ。

もう一度、今回のような試合をすれば、単なる“善戦マン”のレッテルを貼られてしまうことは重々承知だろう。であればだ。石澤に残された時間は長くはない。ここらでガツン!と和製ミルコ・石澤大介の集大成を見せてもらわねばなるまい。

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写真提供:BOUT実行委員会
photo & text:山田タカユキ

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山田 タカユキ

1971年生まれ。おもに格闘技イベント「BOUT」に関するレビュー記事や、出場選手へのインタビュー記事を担当。競技経験は空手・キックボクシング、ブラジリアン柔術。